こんばんは、あすぴです。
高齢のご利用者様が認知症を抱えていることは、珍しいことではありません。
認知症症状がありながらも、自分らしく最期を迎えてほしい。
だけど、どうやって関われば認知症の方のご希望を伺えるんだろう?
そんな風に悩む方も多いのではないでしょうか。
わたしもそんな悩める看護師のひとりです。
今回は、これまでの訪問看護でうまくいった関わりをご紹介します。
引き出しのひとつとして、参考になれば嬉しいです。
こんなとき、あなたならどうする?
がん末期で認知症のAさん
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がん末期の診断があった80歳代の女性、Aさん。
アルツハイマー型認知症も抱えています。
自宅へ退院し、訪問看護の介入が始まりました。
同時に訪問診療と、朝夕の訪問介護も導入されました。
Aさんは兄と二人暮らしです。
兄は介護に対し不安がありました。
しかし、「妹の希望通りの生活をさせてあげたい。」と言い懸命に介護を行っていました。
Aさんはおしゃべりが好きで、いろいろな話をしました。
家族や看護師、ヘルパーなど関わる人に礼儀正しく、とても気を遣われるAさん。
あまり弱音を吐かず、我慢してしまう性格でもあります。
今後について問うと、Aさんはこのように話しました。
「兄に迷惑をかけたくない。
具合が悪くなったら入院するしかないわ。」
身体症状の悪化とともに
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徐々にがんの進行が見られ、痛みに対して医療用麻薬の使用が開始されました。
身体症状の悪化により、認知症症状の悪化も見られるようになります。
Aさんの生活は昼夜逆転し始めました。
おしゃべりの好きなAさんが、だんだんと無口になっていきます。
時間によっては混乱が強く、意思疎通が図れないことも増えました。
そんなとき、兄からこのような相談を受けます。
「最近ますます具合が悪いのは目に見えて分かってきました。
Aは入院すると言っていたけど、本当に入院したいのかわからないんです。
僕に気を遣っているんだろうとは思うけど、本心はどうなんだろう。」
あなたなら、どうアプローチしますか?
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あすぴはこうアプローチした!
まずは症状コントロール
まずは、症状コントロールを行い、夜間の休息をしっかりと取れるよう支援します。
医療用麻薬が適切な使用ができるよう、訪問介護のヘルパーや兄から情報収集し痛みのモニタリングを継続しました。
遠慮がちなAさんは痛みが強くなってからでないと、痛いと訴えることができなかったようです。
そのため、看護師の介入時のみでなくヘルパーのケア時の様子や言動、水分や食事摂取の状況など時間での変化をこまかく観察していきました。
Aさんの場合は、夕方ごろから水分摂取量が減っていることがわかりました。
夕方から夜間にかけて痛みの増強により水分摂取ができなくなっていたのです。
主治医と情報共有し、夕方と眠前に頓服を使用することにしました。
頓服の使用により、痛みの訴えなく夜間の休息が取れるようになりました。
すると、日中の覚醒が格段に良くなり、昼夜逆転の改善を図ることができたのです。
症状コントロールにより、混乱した言動も徐々に減っていきました。
タイミングを見定める
兄から相談のあった、「本心はどうなのか」という内容を、をどのように伺うか検討しました。
Aさんが過ごす日常で、リラックスして話ができるタイミングはいつなのか観察します。
午前中はケアが多く、やや疲労がある様子でした。
しかし、午後は比較的ゆったりと過ごしているようです。
また、症状コントロールが図れてからは、看護師やヘルパーとよく話し笑顔も見られるようになってきました。
兄と相談し、午後の落ち着いた時間で、看護師から聞いてみることにしました。
ある日の午後の会話から
ある日の午後、いつものように看護師の訪問を行いました。
穏やかな天気でした。
足浴を提案すると、快く受け入れてくださいました。
Aさんと看護師、2人で眺めのいい窓の外を見ながら、足湯気分で足浴を行います。
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Aさん、今日は調子が良さそうですね。
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えぇ、とても気分がいいわ。
足湯気持ちいいです、ありがとう。
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それは良かったです。
こちらこそありがとうございます。
Aさん、ちょっと聞いてもいいですか?
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なにかしら?
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とつぜんなんですが、質問します。
Aさんの残りの命は、あとどのくらいだって思いますか?
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残りの命?
うーん、30年、くらいかなぁ。
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そうですか、30年後ですね。
以前、Aさんは人生の最期をどこで迎えたいですかって質問をしたとき、
「入院するしかない」って答えていました。
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あら、わたしが言ったの?
でもそうね、それ以外ないと思ってます。
兄に迷惑かけられないもの。
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ウンウン、そうですね。
じゃあ、その30年後にね、Aさんが最期を迎えるっていうとき。
そのときに、私たち看護師やヘルパーさんが協力するよ〜ってたくさんお手伝いする人がいて、お兄さんが「死ぬときまで家にいていいよ」って言ったとします。
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えぇ、えぇ。
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そしたら、Aさんはどうしたいですか?
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そうねぇ…。
兄がいいって言うなら…最期は家で死にたいわ。本当はね。
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そうか、そうですよね。
そのときは、わたしたちも必ず協力しますね。
穏やかな時間が流れていました。
Aさんは曇りのない笑顔は、まるで窓から見える真っ青な空のようでした。
最期のとき
Aさんとの会話を、そのまま兄にお伝えします。
そして、わたしたち在宅チームも必ず最期までお供することもお話ししました。
「そうですか、やっぱり家がいいって。
やっと決心がつきました。妹は、最期まで家で看ます。
最期までどうぞよろしくお願いします。」
兄の顔から、不安の色が消えました。
それから、主治医と看護師は連携して緩和ケアを行い、できる限りの苦痛の除去に努めました。
ヘルパーとの情報共有を続け、兄の支援を含めて介入を行いました。
それからしばらくして、Aさんは兄に寄り添われ、自宅で息を引き取りました。
兄はエンゼルケアに参加しながら、「良かったなぁ、頑張ったなぁ。」と涙を浮かべて語りかけていました。
認知症を抱える方の意思決定における有効な4つのポイント
身体症状を整える
まず一番に重要なのが、症状コントロールです。
つらい症状を抱えていては、自分の希望や思いを話してみようなんて気にもなりませんよね。
痛みや吐き気、不眠などの主観的で不快な身体症状を緩和することで、認知症症状の安定を図ることが期待できます。
認知機能の低下により不快症状を訴えられない場合もありますので、症状に関連する動作や日常生活の中での変化を観察することが大切です。
特に在宅療養をしている場合、訪問看護師の訪問中のみの情報では不足することが多いです。
ケアマネジャーや訪問ヘルパー、ご家族と情報共有し、ご利用者様の声なき訴えを拾い集めることで症状緩和のヒントになります。
他職種連携を十分に発揮し、症状のパターンを把握していきましょう。
症状のパターンが把握できれば、主治医に報告し薬剤調整をしていただくことでより迅速に症状緩和を図ることができます。
表出しやすい環境を整える
認知症を抱えるご利用者様にとって、思いを表出する環境は非常に重要です。
不慣れな環境による混乱や慣れない人間関係による緊張で、十分に思いを表出できない可能性があります。
そのため、ご利用者様がどんな時間帯には穏やかに過ごせるのか。
どんなケアを心地よいと感じるのか、よく観察しておく必要があります。
これもまた、訪問看護師のみの情報では不十分なことが多いため、他職種連携を図ります。
Aさんは足浴を行うことでよりリラックスして話をすることができました。
わたしの経験上、足浴の際に思いを表出する方が多い印象があります。
入浴介助、リンパマッサージ、手浴なんかもリラックス効果が高く、いろいろな思いを表出してくださる方が多かったのでおすすめです。
認知症の方への関わり方の基本には忠実に
認知症の方とお話しをしていると、事実とは異なる内容が出てくることがあります。
事例では、自身の寿命を「30年後」と話しており、実際の年齢とは異なる認識であることがわかります。
しかし、ここで重要なのは、本人の話を遮らないことと否定しないことです。
事例の関わりの際に、話を遮ってしまったり、「いえいえ、あなたは80歳代ですよ。そんなに長くは生きませんよ。」と否定する発言をしてしまったらどうでしょう。
Aさんはその後、本心を話してくださることはなかったと思います。
また、視線を合わせたりタッチングによるコミュニケーションも有効です。
相手が安心できる関わり方を活用することで、意思決定の際にも効果的であると考えます。
タイミングを逃さない
ある程度モニタリングを続け、本人の安楽な時間帯を抽出することはできると思います。
しかしその中でも、本人が話をしたいタイミングというのはいつ訪れるかわかりません。
体調や気候、環境によりタイミングは明日かもしれないし来週かもしれません。
何より大切なのは、本人が話をしたいタイミングを逃さないということです。
そのためには、支援者がいつでも準備できていることが重要です。
ご家族、ヘルパー、ケアマネジャー、主治医、リハビリスタッフ、看護師などチームメンバーが共通の認識を持ち、そのタイミングに居合わせた人が本人の思いを伺えばいいのです。
そして、本人が話す希望や思いを、チームで共有していきましょう。
どうしたらその希望や思いを叶えられるのか、みんなで考えることでより良い解決策が見出せます。
意思決定が困難な場合もある
今回の事例では、意思疎通が図れるような関わりでした。
しかし、認知症の進行度合いによっては意思決定が困難な場合もあります。
その場合には、意思の推定(推定意思)を行うことになります。推定意思は、その方が望むであろう方法を家族や医療介護チームで話し合い決定していくことが重要です。
ご本人だったらどう望むか、その方の考え方を尊重していくためには、本人からの事前の情報収集がキーとなります。
意思決定ができない状態になる前に、どんなふうに死ぬまでを生きたいか、話し合っておくことが大切です。
なかなか話題にしにくい内容ではあると思いますが、関わる人たちが共通の意識を持って情報収集していきましょう。
また、得た情報をそこで留めてしまうのでなく、家族や関係者で情報共有を行いましょう。
意思決定ができなくなる前に先を予測して関わっていくことで、その方らしい人生の最期を実現できるよう支援が可能となります。
まとめ
事例を通して、認知症を抱えるご利用者様の意思決定を支援するための4つのポイントをお伝えしました。
- まずは不快症状を取り除くケアを行う。
- 認知症の方が思いを表出しやすい慣れた環境や心地よい環境を用意する。
- 認知症の方への関わり方は忠実に、遮らない、否定しない。
- 支援者はいつでも話を聴けるように準備をしておく。
- 意思の推定ができるよう、関わる人みんなで意識をもって情報収集し、それを共有をする。
どんな方でも、自分の最期をどのように過ごしたいか決める権利があります。
それは、認知症があっても同じです。
認知症を抱えるご利用者様との関わり方の工夫により、その方の人生の締めくくりの希望を聴取することができるかもしれません。
最後までお読みいただきありがとうございました。
その人らしい人生を支援するための、引き出しのひとつになれたら嬉しいです。
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