こんばんは、あすぴです。
前回の記事は、「ALS家族が語る体験談〜ALS発症から旅立ちまでの軌跡〜」というテーマでお届けしました。
今回は、ウチくる看護1周年記念企画第2弾としまして、重度訪問介護について詳しく解説していきます。
在宅医療、在宅介護に関わる方が知っていると、いつか必ずお役に立てる知識だと思います。
前回に引き続き、ALS患者のご家族であるMさんへのインタビューを混じえてお伝えしますので、ぜひご覧になってください。
重度訪問介護事業所を立ち上げた経緯
Mさんは現在、重度訪問介護事業所である「なご実ケアサービス」の管理者でもありますが、どのような経緯で事業所を立ち上げたのですか?
僕がなご実ケアサービスを立ち上げたのは、今から18年前です。
事業所の立ち上げを決意する
Yさんの在宅療養が始まり、最初は他社の訪問介護を頼んでいました。
しかし、人手不足でなかなか十分な支援が受けられず、悩んでいた時にKさんの言葉を思い出しました。
「自分で重度訪問介護事業所を立ち上げて、ヘルパーを雇って協力してもらえば、子供を大学まで出せるよ。」
人工呼吸器を付けたYさんと僕たちが生きていくためには、これしかないと思いました。
すぐにKさんと連絡を取り、Kさんは忙しい中で時間を割いて事業所の立ち上げについて詳しい助言をしてくれました。
最初は、基準該当事業所という形で重度訪問介護事業所を立ち上げました。
基準該当事業所というのは、指定障害福祉サービスとしての基準を満たしていなくても、介護事業所等の基準を満たす事業所であれば、市区町村が認めることにより障害福祉サービスの提供を行える事業所です。
比較的簡単に事業所として認可されました。
ヘルパーさんを集め、育てる
私は妻の介護をする目的で事業所を立ち上げました。
そのため、利用者は妻1人です。
まずは妻の介護に協力してくれるヘルパーさん集めから始めました。
ヘルパーさんを集める為に、まずは自分の友達に声をかけて重度訪問介護の資格を取ってもらいました。
また、近所の大学に通う看護学生さんや知人の紹介者にも声をかけ、ヘルパーを探しました。
基本的に協力してくれるヘルパーさんは、介護未経験でした。
当時はまだ制度が充実しておらず、人工呼吸器を扱うことのできるヘルパーさんはいません。
そのため、家族である僕が主となって人工呼吸器の取り扱いや注意点を教えていました。
まずは吸引と経管栄養を習得することを目標に、その後はヘルパーさんの個性に合わせてお仕事をお願いしました。
それぞれ得意、不得意があるので、そのヘルパーさんのいいところを活かせるように一人一人と向き合うことを大切にしていました。
ヘルパーさんを大切にする
こうして、僕と妻の生活を助けてくれるヘルパーさんが徐々に集まってきました。
僕は、全てのヘルパーさんに夫の立場として「何かあれば全て自分が責任をとります。」とお伝えしていました。
ヘルパーさんがいなければ、僕たち家族は生活できないとわかっていたからです。
そのためには、「自分がヘルパーとしてこの家で働くなら、どうして欲しいか。」ということを常に考えていました。
現在もですが、障害者のヘルパー不足は否めません。
ヘルパーさんから選ばれる職場であるには、長く働いてもらうためには、と試行錯誤する日々でした。
妻が亡くなった今も、当時関わってくれたヘルパーさんとは付き合いがあります。
当時の妻との日々を振り返って、懐かしむこともしばしばです。
重度訪問介護とは?
重度訪問介護とは、どんなサービスですか?
重度訪問介護は、基本的には見守りがメインです。また、通常の訪問介護より対象者が限られていて、長時間にわたって生活の支援にあたる場合が多いサービスです。
重度訪問介護の概要とは?
重度訪問介護とは、重度の肢体不自由者又は重度の知的障害若しくは精神障害により行動上著しい困難を有する障害者であって常時介護を要するものにつき、居宅において入浴、排せつ及び食事等の介護、調理、洗濯及び掃除等の家事並びに生活等に関する相談及び助言その他の生活全般にわたる援助並びに外出時における移動中の介護を総合的に行うとともに、病院等に入院又は入所している障害者に対して意思疎通の支援その他の支援を行います。
「厚生労働省 障害福祉サービスについて」より引用
見守りをするということ
利用者さんに必要な介護支援は利用者さんの希望に合わせて行いますが、重度訪問介護では見守りを行う時間も多くあります。
見守りというのは一般的な介護サービスとは異なり、本当に必要なのかと問われる事も少なくありません。
見守りとして利用者さんのそばに居ることは、とても大事なことです。
見守りをするヘルパーさんが居なければ、家族の誰かが常に近くに居なくてはならないのです。
24時間介護の実際は?
重度訪問介護は、支給決定された支援時間分のサービスを受けることができます。
介護保険は介護度によって支給限度額が決定しますが、障害福祉の場合には一人一人の状態を市区町村が評価して必要な時間数を支給決定します。
例えば、ALSは進行すれば24時間介護が必要な病気です。
1ヶ月は時間に換算すると、744時間です。
1ヶ月744時間、誰かが近くに居なければ生活が出来ないのです。
744時間の中で、重度訪問介護や訪問看護が関わる時間以外を、家族が見守りをしています。
あなたなら、今の生活の中で1ヶ月何時間を、家族の見守りに割けますか?
僕たちが都内に引っ越してきた時に与えられた重度訪問介護の支給時間は、320時間です。
744時間中、320時間。
1日にしたら約10時間ですから、残りの14時間は妻につきっきりです。
もちろん10時間は仕事や家事育児をすれば、すぐに過ぎてしまいます。
これでは寝る時間もないので、役所の担当者さんに何度も交渉して時間数を増やしてもらいましたが、決定するまではとても時間がかかりました。
現在では以前に比べると支給される時間数は増えていますので、障害を抱えながら在宅療養することについて徐々に理解されてきたのだと感じます。
重度訪問介護の対象者とは?
重度訪問介護は、どのような方が利用できますか?
原則として18歳以上で障害支援区分「4以上」で、一定の条件を満たす人が利用できます。場合によっては15歳以上の障害児も利用が認められることがあります。
障害支援区分は、非該当及び1〜6の7つの区分に分けられます。
重度訪問介護の対象者となるには、以下の条件を満たす必要があります。
障害支援区分が区分4以上(病院等に入院又は入所中に利用する場合は区分6であって、入院又は入所前から重度訪問介護を利用していた者)であって、次のいずれかに該当する者
1 次のいずれにも該当する者
(1) 二肢以上に麻痺等があること
(2) 障害支援区分の認定調査項目のうち「歩行」「移乗」「排尿」「排便」のいずれも「支援が不要」以外と認定されていること
2 障害支援区分の認定調査項目のうち行動関連項目等(12項目)の合計点数が10点以上である者
※平成18年9月末日現在において日常生活支援の支給決定を受けている者に係る緩和要件あり。
重度訪問介護で働く従事者は?
重度訪問介護で働くには、介護の経験や資格が必要なのですか?
従業者は介護の経験がなくても働くことができます。資格は必要です。重度訪問研修課程と第3号研修(喀痰吸引等)を受講することで取得出来ます。
重度訪問介護で働く介護士は、以下の通りです。(参考:厚生労働省 重度訪問介護の対象拡大について)
【従業者】
・ 居宅介護に従事可能な者 (介護福祉士、介護職員基礎研修修了者、居宅介護職員初任者研修修了者 等)
・ 重度訪問介護従業者養成研修修了者
【サービス提供責任者】
・ 介護福祉士、実務者研修修了者、居宅介護従業者養成研修1級課程修了者、介護職員初任者研修を修了した者であって3年以上の実務経験がある者
利用者さんの自己負担はどのくらい?
実際に利用者さんがお支払いになる自己負担分はどのくらいですか?
その家の課税状況によって異なります。
障害福祉サービスの自己負担分は原則1割です。
残りの9割は、市区町村及び都道府県、国が負担しています。
なお、介護保険サービスと障害福祉サービスを併用して利用している場合には、上限額以上は還付を受けることができる場合があります。
詳細は市区町村の窓口にお問い合わせください。
重度訪問介護を利用するには?
重度訪問介護を利用するには、どんな手順で申し込めばいいですか?
重度訪問介護は、次のような手順で申し込むことができます!
重度訪問介護を使ってヘルパーに入ってもらうまでの流れ
- 市区町村の障害福祉窓口に相談をする
- 身体障害者手帳の申請をする
- 障害者支援相談員にサービス利用計画を作成してもらう
- 受給者証を受け取る(支給決定を受ける)
- 重度訪問介護事業所と契約する
- サービスの開始
なお、各市区町村により手順に違いがある可能性があります。
65歳以上(または40歳以上で一部の疾患がある方)は、原則として介護保険の支給限度額分までは介護保険を優先して介護サービスを利用します。
ただし、介護保険サービスで賄えない場合には、介護保険の支給限度額を使い切らなくても障害福祉サービスとして重度訪問介護を利用することもできます。
もし申請手続きや事業所探しで悩んだ際には、どなたでも僕に連絡をいただければ相談に乗りますよ。
ありがとうございます、心強いです!
重度訪問介護の利点、不利点
では、実際に重度訪問介護を利用して在宅療養をしてみて、メリットやデメリットはありましたか?
数で言うとデメリットの方が多いように感じるかもしれませんが、圧倒的にメリットの方が大きいですよ。
利点 | 不利点 |
---|---|
介護者の負担軽減ができる 外出ができる | 人の出入りが多くなる ヘルパーの育成に時間がかかる 熟練したヘルパーが極端に少ない 重度訪問介護を行う事業所が少ない |
人手不足はデメリットの一つ
僕が実際に重度訪問介護を利用する側として感じたのは、やはり圧倒的な事業所不足、人手不足です。
せっかく支給決定で時間数を得られても、働き手がいなければ十分な支援が受けられないのです。
事業所に熟練したヘルパーさんがいても、障害者の在宅療養は長期間続くため空きがありません。
僕は自分で事業所を立ち上げてヘルパーさんが長く支援に当たってくれたので助かりましたが、他事業所からの派遣でヘルパーさんに来てもらっている時はなかなか人が定着せず、その都度家の中のことを覚えてもらうのが大変でした。
僕と妻はそんなに抵抗はありませんでしたが、他人を家にあげることを好まない人の場合は、ヘルパーさんが長時間家に滞在することに慣れるまでは辛いかもしれませんね。
1人じゃできないことができるメリット
ヘルパーさんが定着してからは、ヘルパーさんに妻を任せて家事や育児ができました。
何より人工呼吸器をつけた妻と外出できることが最大のメリットでした。
僕1人では、人工呼吸器を積んだ車椅子を押しながら、妻の顔色や表情を伺うなんて手が足りません。
数人のヘルパーさんが一緒に外出してくれるので、ディズニーランドや海、マザー牧場など色々なところへ出かけることができました。
ヘルパーさん達がいなかったら、僕と妻は家に篭りっきりだったかもしれませんね。
重度訪問介護でできること
重度訪問介護って、具体的にどんなことをするのですか?
利用者が希望することを幅広く支援するのが重度訪問介護です。
重度訪問介護では、日常生活の中で利用者さんがしたいことを支援しています。
例えば、歯磨きや洗面を自分がしたいタイミングで出来る、好きな服を選んで着る。
長時間の支援では、決められた時間に制限されず、より個別性の高い日常生活を送るお手伝いができるのです。
身体介護
入浴、食事、更衣、排泄の介助を行います。
家事援助
調理、洗濯、掃除、生活に必要な買い物などの援助を行います。
移動介助
外出時の移動支援、移動中の介護を行います。
見守り
必要な時にいつでも支援ができるよう見守りを行います。
Mさんの事業所【なご実ケアサービス】での取り組み
なご実ケアサービスでは、どのような取り組みをされていますか?
なご実ケアサービスでは、僕の経験を活かして重度訪問介護をより多くの人に利用してもらえるよう活動しています!
なご実ケアサービスでは、自薦ヘルパーを推奨しています。
自薦ヘルパーとは、自分の専任のヘルパーさんです。
もし自薦ヘルパーに興味がある場合には、ヘルパーさんの募集方法や具体的な研修方法など私が実践してきたことをお伝えすることもできます。
困っている在宅療養者に、そのご家族に、生きる希望を届けたいです。
僕が力になれることであれば、ぜひ相談してください。
そして、自分で重度訪問介護事業所を始めたいと考えているのであれば、そのノウハウもお伝えします。
ただ、利用者の覚悟、介護者の覚悟がなければ私たちは力を貸すことが出来ません。
僕と妻は重度訪問介護事業所を立ち上げて、在宅療養を続けることができました。
それは、Kさんがくれた一筋の光を掴むとともに、関わってくれるヘルパーさんを守る覚悟を決めたからです。
18年間で、たくさんの経験をしてきました。
今度は僕が、どなたかの一筋の光になれたらと思います。
ありがとうございます!
Mさんやなご実ケアサービスへの質問、相談は随時受付中です!
重度訪問介護が今後必要となる患者さんやその関係者の方、重度訪問介護をもっと知りたいという方はぜひ連絡してみてくださいね。
なご実ケアサービス@ALSのTwitterアカウントでは、重度訪問介護の情報発信を行いますので、フォローお願いします!
DM、リプでのご質問もお気軽にどうぞ♪
遠方の方はオンラインでのご相談もできますよ〜。
まとめ
今回は、「重度訪問介護とは?|ALS家族が語る体験記〜ALS患者と在宅療養〜」をテーマに、重度訪問介護の詳細を解説しました。
私も、重度の障害を抱えた利用者さんにとって重度訪問介護という仕事は生活を支える重要な役割だと感じています。
今後、病状の進行に合わせて情報提供が必要な場合には、ぜひ今回の知識を活用してください!
次回は、「ALS患者と訪問看護|ALS家族が語る体験談〜ALSと在宅医療介護チーム〜」をテーマに、訪問看護ができる関わりや利用者さんが訪問看護に求めることなど、現場で使える情報万歳でお届けします!
ぜひ、お楽しみに。
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